【記事】シナリオ4〜6

こんにちは、クリスティーヌ中島です。
漫画の練習の一環で、毎週20枚シナリオを作っています。
その中から気に入ったものをご紹介します。


4 私の雨男(課題:雨)
5 田中太郎(課題:男と女)
6 101回めの暗殺計画(課題:復讐)

1〜3はこちら


■私の雨男

  人  物

桜田瞳(24)石けんと香水店の販売員
雨宮裕一(24)会社員。
佐藤進(24)会社員
同窓会のクラスメートたち
香水店のカップル


○新宿駅・改札(夕方)
   雨が降りだす。薄手のトレンチコート
   とワンピースを着た桜田瞳(24)が外
   を見てため息をつく。瞳は優しそうな
   顔立ちの美人である。
瞳「雨かぁ。天気予報と全然違うじゃない」
   瞳はスマートフォンを操作する。画面
   には、天気予報のページの次に『同窓
   会のお知らせ』と書かれたメールが映
   る。
瞳「ふう」
   瞳はため息をつく。
   後ろから青いシャツを着た雨宮裕一
  (24)が現れる。雨宮は背が高く痩せて
   おり前髪で顔が隠れている。
雨宮「あの」
   瞳は一瞬気付かないが、気付いて振り
   向く。雨宮は黒い折りたたみ傘を差し
   出す。
雨宮「よかったら使ってください」
   瞳は受け取る。
   雨宮は別のビニール傘をさして足早に
   道へ出て行く。
瞳「えっ、あのっ」
   瞳は声をかけようとするが既に雨宮の
   姿は遠い。
   瞳は見えなくなった背中に少し伸び上
   がって言う。
瞳「ありがとー」

○新宿駅近く・居酒屋
   長いテーブルに若い男女が座っている。
   雨宮と瞳も少し離れた位置に座ってい
   る。テーブルにビールと飲み物がきて
   いる。
   佐藤進(24)は立ち上がりビールを掲
   げる。
佐藤「じゃあ、皆そろってるかな? 青空高
 校卒業生の再会に乾杯!」
同窓会のクラスメイトたち「乾杯!」
   皆、飲み物を飲み、食べ始める。佐藤
   は雨宮の隣に座る。
佐藤「なあ、お前の会社ってきついの?」
雨宮「そんなには。まだ研修だし、残業多く
 ないし」
佐藤「いいよなぁ、俺の会社新入社員は花見
 の場所取りやらされるんだよ。面倒だなぁ」
   雨宮はビールを飲んでいる。
佐藤「今度の金曜、雨宮パワーで雨にしてく
 れよ」
雨宮「いいけど、なんかおごれよ」
   瞳が立ち上がって、空いている雨宮の
   横に座る。
瞳「あの、雨宮くん?」
雨宮「桜田さん」
瞳「久しぶり、本当に。それに、さっきは駅
 で雨宮くんだって気付かなかったけど、傘
 をありがとう」
雨宮「いいんだよ、別に」
瞳「どうして傘を2本持ってるの?」
雨宮「俺、すごい雨男なんだ。俺が出かける
 時は降水確率が90%を超えるんだよ。誰
 かに迷惑かけちゃいけないと思って、最近
 はいつも予備の傘を持ってるんだ」
瞳「雨宮くんて冗談言う人だっけ。あはは」
   瞳は明るく笑う。
雨宮「嘘じゃないんだよ、本当に。これでも
 悩んでるんだ」
瞳「覚えてる? 昔一緒のクラスだった
 ときも、傘を貸してくれたことあったね」

○ 回想・青空高校・下駄箱(夕方)
   眼鏡をかけておさげをし、セーラー服
   を着た瞳が外を見ている。外は雨であ
   る。学ラン姿の雨宮が校内から出てく
   る。雨宮は無言で傘を瞳に押し付ける。
瞳「えっ、あの」
   雨宮は雨の中、漫画雑誌を頭にかぶっ
   て走って出て行く。

○新宿駅近く・居酒屋
   雨宮と瞳はならんで座っている。
雨宮「あったっけ、そんなこと」
瞳「あったわよ。とぼけちゃって。私返そう
 と思ったのにずっと返せなかったから覚え
 てるもの」
   佐藤がつまらなそうに雨宮と瞳を見て
   酒を飲んでいる。
雨宮「桜田さんは今何してるの」
瞳「舞浜の香水のお店で働いてるの。お客さ
 んにあった香水や石鹸をおすすめするのよ」
雨宮「舞浜? 舞浜ってディズニーランド
 の?」
瞳「そう。ディズニーの横のショッピング
 モールの店舗で働いてるの」
   雨宮は身を乗り出す。
雨宮「もしかして、ディズニーのこと詳しか
 ったりする? 俺、どうしても聞きたいこ
 とがあるんだ」

○舞浜・イクスピアリ・外観
   イクスピアリ前の噴水広場である。

○同・香水店
   香水と石けんが売られている店に、カ
   ップルが腕を組んで入って来る。スー
   ツ姿の瞳が話しかける。
瞳「何かお探しですか?」
カップルの女性「今度、ディズニーランドで
 結婚式を挙げるんです。それで、引き出物
 を探していて」
瞳「それはおめでとうございます! カタロ
 グギフトもご用意がありますよ」
    カップルは嬉しそうに顔を見合わせる。

○マンション・外観(夜)
   単身者用のマンションである。

○マンション・室内(夜)
   瞳は部屋着で、髪の毛は濡れており肩
   にタオルがかかっている。瞳はテレビ
   をつける。
○回想・新宿の居酒屋
   瞳と雨宮は並んで座っている。
   雨宮は身を乗り出して話す。
雨宮「俺の妹、来月ディズニーランドで結婚
 式を挙げるんだ」
瞳「それはおめでとう」
雨宮「妹は昔からディズニーが好きで、すっ
 ごい楽しみにしてて」
瞳「一生に一度だものね」
雨宮「ただ……妹は何も言わないけど、俺が
 出席したら雨になるんじゃないかって心配
 で。結婚式に出てくれた人はそのまま、夕
 方はディズニーで遊んでもらうって趣向み
 たいなんだけどもし、もし雨になったら」
   瞳は目を丸くする。
瞳「本気で心配してるの?」
雨宮「俺の雨男ぶりは小学校の時からお墨付
 きなんだよ! お客さん全員の雨具を準備
 しようかと思ってるんだけど。こう、根本
 的な解決になってないし、何か他にいい方
 法ないかな」
瞳「雨を避けるんじゃなくて、雨でも楽しめ
 るようにすればいいじゃない?雨の日のデ
 ィズニーって、雨用のイベントが色々ある
 のよ。パレードも雨の日限定だったり」
雨宮「そういうのがあるのか」
瞳「あの、よかったら、雨の日のディズニー
 のまわりかた、教えてあげよっか」
雨宮「ありがとう! あの、じゃあ、今度の
 土曜日出かけない? 雨だと空いてるよね、
 ディズニーランド」
瞳「土曜日は晴れじゃないの?」
   瞳は当惑しながらスマートフォンを見
   せる。画面の週間天気予報は全て晴れ
   である。
雨宮「大丈夫、俺が出かける場所は確実に雨
 になるから」
瞳「本当に? 本当の本気で言ってるの?」
雨宮「大丈夫、大丈夫。ラインで連絡するよ」

○マンション・室内(夜)
   瞳は部屋着で、髪の毛は濡れており
   肩にタオルがかかっている。瞳はため
   息をつく。
瞳の心の声「からかわれたのかなぁ」
   瞳はテレビをつける。天気予報がかか
   る。
ニュースの声「金曜夜から土曜にかけて、千
 葉県の一部で雨が降るでしょう。お出かけ
 の際は傘のお忘れがないようにご注意くだ
 さい」
   瞳のスマートフォンでメッセージ着信
   の音がピロリと鳴る。瞳はスマホを手
   に取って微笑む。
雨宮の声「明日は朝10時に舞浜集合。よろ
 しくな」
   瞳は飛び跳ねるようにマンションのベ
   ランダに出る。小雨が降り始める。瞳
   はベランダから身を乗り出して両腕を
   ひろげる。
   雨が本格的に振り出し、瞳の腕や顔、
   上半身を水滴が打つ。瞳は服もタオル
   もびしょぬれだが、嬉しそうに笑う。


■田中太郎

  人  物

宮村優希(31)弁護士
田中太郎(36)結婚詐欺師
堀啓介(29)弁護士。優希の後輩


○結崎弁護士事務所・外観
   二階建てのビルである。弁護士事務所
   の看板がでている。

○同・会議室
   窓際の席に宮村優希(31)が座ってい
   る。前に書類を持った堀啓介(29)が
   やってくる。宮村はボブの髪型の知的
   な美人である。二人ともスーツである。
優希「新しいクライアントは?」
堀「こちらです」
   堀は書類を机の上に拡げる。優希は書
   類を持つ。
優希「田中太郎、結婚詐欺師…本名なの?」
堀「本名です」
優希「職業、無職」
堀「本人はプロのヒモだと言っています」
優希「女の敵ね。顔は、バナナマンの日村」
堀「男の憧れです」
優希「何、堀くん。肩を持つじゃない」
   堀は首を振り感嘆しながら書類を持つ。
堀「なかなかできることじゃありません。こ
 の田中って人の調書みましたか? 6人の
 女性に日替わりで会って、夫として接して
 たんです。夕方の19時から翌朝8時まで
 女性と一緒に過ごす。出張に行くと言って
 実際は無職。養ってもらって、年収は訳
 一千万。週一日は自分のための休日」
優希「結婚は4回、離婚も4回か。女性をな
 んだと思ってるのかしら。最低ね」
堀「この顔でそのモテっぷり。僕は、見習わ
 ないといけません」
   机の上には太った男の写真がある。
   堀は神妙にうなずく。

○同・玄関前
   小太りの田中太郎(36)がやってきて、
   弁護士事務所の看板を見上げて入って
   いく。

○同・応接室
   優希と田中が向かい合って応接室のソ
   ファに座る。
優希「初めまして。宮村優希と申します」
   優希は両手で名刺を渡す。田中は受け
   取る。ふたりは座る。
田中「弁護士さんて、女性だったんですね。
 弱ったな」
優希「弁護は男女の区別なく行いますので、
 ご安心ください」
   堀は横から3つお茶を出し、自分も優
   希の横へ座る。
田中「うーん、まいったな。こんな奇麗な人
 だと」
優希「早速ですが、裁判に向けて打合せをし
 ていきたいと思います。事実関係は書面で
 読みましたので、田中さんの価値観等伺っ
 て、弁護のストーリーの参考にさせてくだ
 さい。よろしいですか?」
田中「はい」
優希「田中さんは複数の女性と日替わりで暮
 らしておられたそうですね。女性の内一人
 の親御さんが結婚詐欺で訴えを起こした」
田中「そうです、参りました」
優希「どの女性が本妻だったんですか?」
田中「どの人も本命です。どの人も真剣に愛
 してました」
堀「お聞きしてもいいですか? 週に一度会
 うだけの男性を、女性はそんなに好きにな
 るものですか?」
田中「女性に好かれようっていうのは、あま
 り考えません。僕の方から愛するんです。
 僕、すぐ女性を好きになっちゃうので。バ
 リバリのキャリアウーマンだって、男ぎら
 いの人だって、誰かに甘やかされたり頼り
 たいと思っています。そういう人の支えに
 なるのが僕の天職なんです」
優希「失礼ですけど、自分のしたことが不誠
 実だとは思いますか? 法廷では反省した 
 姿勢を見せるのも有効なんです」
田中「誠実ってなんですか? 旦那さんに内
 緒で高級ランチを食べる主婦も、会社付き
 合いだと言ってキャバクラに行くサラリー
 マンも、皆家庭に内緒を持っています。僕
 の内緒の範囲は、人より少し広いだけです」
優希「そうですか…どう弁護したものかしら」
堀「あの。そんなに奥さんや彼女がいて、デ
 ート代はかさみませんか」
   堀はメモをとっている。
田中「女の人を口説くのに、お金なんていり
 ません。無一文の時は熱烈なラブレターを
 書いてひざまずいて渡します」
堀「なるほど。他には? 奥さんたちは週一
 回会うだけでは文句を言いませんでした
 か? 構ってくれないとか」
田中「文句ですか。不満を言われたら、そん
 な気持ちにさせてごめんねってまず謝りま
 すね。それからよくよく話を聞きます。口
 で言ってるのとは別の所に不満があること
 が多いので。本人もわかってないんです。
 あとは、普段から別れ際に、君は僕にとっ
 て世界一の素晴らしい女性だ、そのことを
 忘れないで欲しいっていうんです。心の底
 からです。そうすると彼女たちは一週間幸
 せな気持ちでいるわけですから」
   優希はあきれ顔である。堀はメモをと
   っている。田中は身を乗り出す。
田中「あの、宮村さん。僕はどうしても牢屋
 に入りたくないんです。刑務所って男しか
 いないでしょ? 僕は女性に会うのが生き
 甲斐なんです。本当に困ります。泣きたい
 くらいです」
   田中は涙をうかべ、優希を見たままボ
   ロボロ泣き出す。鼻水も出ている。
   優希は戸惑い、ハンカチを差し出す。
優希「あの、これどうぞ」
   田中は白いハンカチを受け取り、顔を
   拭く。

○同・玄関
   弁護士事務所の建物から田中が出て行
   く。

○同・会議室
   宮村と堀が窓から田中の背中を見送る。
優希「あきれた……」
堀「目から鱗です」
   堀はメモを見返している。
優希「あんたも仕事しなさい! あぁ、もう、
 どう弁護したものか」
堀「騙された6人の女性の内5人までは、田
 中さんは日曜大工するようないい夫だった
 ってかばってますよ。証人喚問しますか」
優希「あ、ハンカチ貸したままだ」
堀「なるほど」
   堀はメモをとる。

○東京・俯瞰
   テロップ「2週間後」

○結崎弁護士事務所・外観
   二階建ての事務所である。

○同・会議室
   宮村が机に肘をついている。堀が書類
   を整理している。
宮村「今日、田中さんの二回目の打合せよね?」
堀「はい。あの、僕他の件で外へ出るので、
 田中さんの件で面白い話あったら、後で教
 えてくださいね」
宮村「面白いってなによ。面白くないわよ! 
 精神異常っていうには弱いし、本人に反省
 の色はなし……、ある意味精神異常なんだ
 けど」
   宮村は頭を抱える。

○同・玄関
   堀が出て行く。入れ違いで田中が入っ
   てきて、ふたりは会釈する。

○同・応接室
   優希がテーブルにお茶をふたつ置く。
   優希と田中がソファへ座る。
優希「お久しぶりです」
田中「どうもこんにちは。今日は暑いですね」
優希「本当。すっかり夏ですね」
田中「やっぱり、美人の前だと暑くなっちゃ
 うのかな」
優希「それでは、弁護の方向からお話したい
 んですけど、やはり、結婚詐欺への反省の
 姿勢を見せていくしかないと思います」
田中「宮村さんのおっしゃる通りにします」
優希「それから、女性たちに誠意を尽くした
 ことも強調します」
田中「はい」
優希「そういう方向で、答弁の内容を一度書
 面にして、修正していきます」
田中「おっしゃる通りです。やっぱり、優秀
 な弁護士さんは違いますね」
優希「田中さん、聞いてらっしゃいますか?」
田中「あの、この間ハンカチをお借りしたと
 思うんですけど」
   田中は脇の紙袋からハンカチと花を一
   輪取り出す。
田中「ありがとうございました」
優希「いいえ」
   優希はハンカチを受け取り、花を突き
   返す。
優希「こういったものはいただけません」
田中「駄目ですか? 似合うと思ったのにな」
優希「あのですね、ご自分の立場わかってま
 すか? 女癖が悪くて裁判まで起こされそ
 うなのに、何花とか贈ってるんですか?」
田中「この間宮村さんにお会いしたとき、ビ
 シッとした格好いい女性だなぁって思って。
 もっとお知り合いになれたらと思ったんで
 す」
優希「もう、担当を変わります。この調子じ
 ゃ弁護なんてできっこないですから。男性
 の弁護士を紹介します」
田中「それは困ります! 大体、宮村さんが
 魅力的だから悪いんです。僕のせいじゃあ
 りません。宮村さんのせいです。僕だって
 裁判に勝ちたいと思って来てるのに、宮村
 さんみたいな人が担当だと好きになっちゃ
 って、すごく気が散ります。花なんか買い
 たかないのに、うっかり買っちゃったじゃ
 ないですか!」
優希「馬鹿なんじゃないかしら。もうお会い
 しません」
   優希は立ち上がる。田中も怒って立ち
   上がる。
田中「勝手に担当を降りるなんて、駄目です! 
 僕はもっと会いにきたかったのに。宮村さ
 んに弁護してもらうために、また犯罪を犯
 します。そうすればまた会えるでしょう。
 宮村さんは犯罪を増やす気ですか」
優希「それって恐喝よね」
田中「弁護士さんは、日本の平和のために僕
 とデートしなくちゃいけない。そんな感じ
 でどうでしょうか? きっと楽しいですよ」
   田中はにこにこして花を差し出す。


■101回めの暗殺計画

  人  物

花村幸子(26)主婦
剛田陽一(35)外科医
友人1(26)幸子の友人
友人2(26)幸子の友人
林真美子(25)幸子の友人


○ お台場・波打ち際(夜)
   夜景がキラキラと輝いている。男性と
   女性が車から降りてくる。剛田陽一(3
   5)と花村幸子(26)である。
剛田「さっちゃん。いや、幸子さん」
   幸子は振り向く。剛田はひざまずき、
   スーツの内ポケットから小箱を取り出
   して開く。指輪が輝いている。
剛田「俺と、結婚してくれへんか。いや、結
 婚してください」
   幸子は驚愕の表情で剛田と指輪を見比
   べる。幸子は指輪の箱をつかみ、海に
   向かって投げとばす。
剛田「ああっ」
   幸子はため息をつく。
幸子「大事な話があるっていうからきたのに、
 こんな話なわけ?」
剛田「俺はあきらめへん! なあ。何があか
 んのや」
幸子「全部よ」
剛田「俺は医者や。さっちゃんを苦労させへ
 ん。バリバリ働くし絶対幸せにする」
   剛田は再び懐から小箱を取り出し、ひ
   ざまづく。幸子は呆れる。
幸子「何個持ってるの?」
剛田「さっきのはリハーサルや。受け取って
 もらえたらそれが本番や。何個もあるでえ」
   幸子は吹き出す。
幸子「私、わがままよ」
剛田「かわいらしいやないか」
幸子「それに、あなたが譲さんを殺したこ
 と、許したわけじゃないから」
剛田「それは……」
   剛田は立ち上がる。
剛田「それとこれとは、話が別やないか」
幸子「事実がどうだろうと、私の気は済まな
 いの」
   剛田は、覚悟を決めた表情で、指輪を 
   幸子の手にはめる。
剛田「かまへん。夫婦になったら、いつか誤
 解もとける」
   幸子は指輪をながめている。

○ プリンスホテル・外観
   大きなホテルである。晴天である。

○ 同・挙式会場
   ウェディングドレス姿の幸子とタキシ
   ードの剛田がキャンドルサービスをし
   てまわっている。友人1と友人2が円
    卓に座り噂話をしている。招待客の装
   いである。
友人1「まさか、あのお医者さんと結婚する
 なんてねえ」
友人2「本当。幸子の前の彼氏の手術をした
 お医者さんでしょう?」
友人1「どこで縁があるか、わかんないもん
 ね。さて、新郎側のお医者さんで独身男性
  は誰かな!」
友人2「ちょっと、抜け駆けは許さないわよ」
   友人1は男性側招待客をながめ始める。

○剛田家・外観
   庭のある一軒家である。

○ 同・リビング
   パジャマ姿に寝癖のついた剛田が目を
   こすりながら部屋から出て来る。
幸子「おはようあなた。朝食できてるわよ」
   幸子は普段着にエプロンをしている。
剛田「おはよう」
   剛田はうっとりと幸子を見ている。
   幸子は朝食をキッチンから食卓へ運ん
   でいる。幸子は突っ立ったままの剛田
   に気付く。
幸子「何してるの? 顔洗ってきたら?」
剛田「ん? 奥さんに見とれてたんや。かい
 らしいなぁと思て」
幸子「もうっ」
○同・食卓
   ワイシャツ姿に着替えた剛田が食卓に
   つく。焼き魚とみそ汁の朝ご飯である。
剛田「いただきまーす」
   幸子はにっこりと微笑む。
幸子「コーヒーもあるからね」
   剛田は豪快に食べている。
剛田「なんや、夢みたいやなぁ。俺は幸せす
 ぎてもうすぐ死ぬんちゃうかな」
幸子「大げさね」
   幸子はコーヒーを出す。剛田はコーヒ
   ーを飲み微笑む。

○喫茶店
   幸子と林真美子(25)が紅茶を飲ん 
   でいる。真美子は黒い服に濃い紫のア
   イシャドウをした、奇抜な雰囲気の女
   性である。
   幸子は必死な表情で話している。
幸子「それでね、あの人ったら毒入りコーヒ
 ーをゴクゴク飲んでも平気なの! 人間じ
 ゃないんじゃないかしら」
真美子「本当に?」
幸子「真美子の言った通り、もう一週間も飲
 ませてるのに。煙草のだし汁で淹れたコー
 ヒーって、毒よね?」
真美子「そのはずだけど……」
   真美子は怪訝な表情である。
真美子「諦めちゃだめよ。貴女の恋人の譲さ
 んを医療過誤で殺したのは、今の旦那さん
 なんでしょ」
幸子「そう! そうよ。私、譲さんの敵をう
 つために結婚したんだから。絶対に許さな
 い。殺し方なんて、他にもたくさんあるわ」

○剛田家・外観(夕)
   庭のある一軒家である。

○ 同・玄関
   剛田が入って来る。
剛田「ただいまぁ」
幸子「お帰りなさい。お風呂わいてるわよ」
   エプロン姿の幸子が出迎え、剛田の鞄
   をもつ。
幸子「ご飯まだかかりそうなの」
剛田「ほな、先にお風呂入らせてもらおかな」
幸子「パンツとシャツは脱衣所に置いたから」
剛田「おう。なんて気ぃきく奥さんなんや」
   剛田は上着を脱ぐ。

○同・脱衣所
   剛田は上半身裸である。鼻歌を歌いな
   がら、トランクスを脱ぎ捨て洗濯機へ
   投げ入れる。風呂場の戸を開ける。

○同・リビング
   幸子が夕飯の写真を携帯で撮る。
幸子「撮影日時もあるし、アリバイはよし」
   遠くから激しい物音と、剛田の叫び声
   がする。
剛田「おわあああ」

○同・脱衣所
   戸を開けて幸子が脱衣所へ入る。風呂
   場の戸が開いており、風呂場で剛田が
   仰向けに倒れている。意識がない。
幸子「あなた!」
   幸子は駆け寄り、しゃがんで脈をとる。
   剛田の胸に耳をあてる。
幸子「脈が……ある!」
剛田「うーん」
   剛田が目をさまし、起き上がって後頭
   部を押さえる。
剛田「なんや、つるっと滑ってもうた。風呂
 の床がぬるっとしてて」
   剛田は頭のあったあたりを振り返る。
剛田「あっ! タイルが割れてもうた」
   風呂の床のタイルが派手に割れている。
幸子「まさか! あり得ない!」
剛田「新築やのになぁ。俺石頭やからなぁ。
 すまんなさっちゃん」
   幸子は震える手で携帯を取り出す。
幸子「病院に行きましょう……念のため」
剛田「うーん、大丈夫やけど、場所が場所や
 からなぁ。たんこぶできてもうた」
幸子「人間かどうか調べてもらわなきゃ」
剛田「えっ。どういう意味?」
   幸子は携帯で電話をかける。
幸子「もしもし、タクシー一台お願いします」

○病院(夜)
   大きな病院である。

○同・廊下
   幸子と剛田が並んで椅子に座っている。
   剛田は頭に貼り薬をはりネットをかぶ
   っている。
剛田「まさか、うちの病院に患者として来る
 なんてなあ」
幸子「うん」
   幸子はうつむいている。
剛田「どうしたん?」
   幸子の返事はなく剛田はため息をつく。
剛田「譲さんが亡くなった時のこと、思い出
 したんやろ。こんな夜やったもんな」
   幸子は剛田を見る。
剛田「譲さんには悪いけど、俺は譲さんに感
 謝してる。こないええ嫁さんと引き合わせ
 てくれたんは譲さんや」
   幸子は怪訝そうである。
剛田「僕は、さっちゃんより先には死なんよ。
 病院で、患者に先立たれたご家族をよう見
 るけど、あんなに辛いもんはない。さっち
 ゃんより先には死なん。約束する」
   幸子はすすり泣き、ハンカチを取り出
   して泣きじゃくりはじめる。
剛田「俺は殺しても死なん。最後にさっちゃ
 んには、一緒にいてよかったって言っても
 らうねん。それが俺の愛や」
   剛田は優しい表情で幸子を抱きしめる

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