20141103_sinario

【記事】シナリオ1〜3

こんにちは、クリスティーヌ中島です。
漫画の練習の一環で、毎週20枚シナリオを作っています。
その中から気に入ったものを3作品、ご紹介します。


1 白雪姫の婚活(課題:鏡)
2 さよなら思い出(課題:悲しみ)
3 聖子の正義(課題:盗み)


1 課題 鏡

   白雪姫の婚活

  人  物
白雪姫(16)城のお姫様
鏡(35)真実の鏡
王子(25)他国の王子
狩人(29)森のほとりの狩人
兵士(30)兵士


○ 白いお城・外観
   白と金の洋風の美しいお城である。

○ 白いお城・鏡の間
   金縁の大きな鏡が一番奥に置かれ、正
   面に扉がある。そっと扉が開き、白雪
   姫(16)が入ってくる。白雪姫はあた
   りを伺っている。白雪姫は誰もいない
   部屋の真ん中を小走りに走り抜け、鏡
   (35)へ駆け寄る。
白雪姫「鏡よ鏡…、真実の鏡、とぼけたって
 だめよ。ちゃんと応えてね」
鏡「はい、これはこれは、白雪姫様。あなた
 の年頃のお嬢さんの質問は大体わかってい
 ます。この世で一番美しいのは誰? 
 ですか。それは、ここだけの話、白雪姫様、
 若く美しいあなたです。お妃様には内緒で
 すよ」
白雪姫「そんなこと知ってるわ」
   白雪姫は黒髪をかきあげる。
白雪姫「だって国中の誰と比べても私が一番
 美人だもの。そんな見てすぐわかること、
 わざわざきかないわ」
鏡「おや。それでは質問とは何でしょう?」
白雪姫「私の質問はね、それは、私の未来の 
 旦那様が誰かってことなの」
   白雪姫は胸の前で手をくみあわせ祈る
   ようなポーズをとる。
白雪姫「私の未来の夫は素敵な方かしら?」
鏡「ふむ…お待ちください…、貴女の将来の
 伴侶は…」
   鏡がゆがみ、波打って人影が2つ映る。
鏡「候補者は2人いますね。ハンサムでたく
 ましい狩人か、大人しいけどお金持ちの王
 子様か」
   鏡には、浅黒くたくましい胸板の狩人
   と、やさおとこで取り立てて特徴はな
   いが育ちのよさそうな王子が映ってい
   る。白雪姫は熱心に鏡を見る。
白雪姫「まあ。2人? このふたりのどちら
 かってわけ? ハンサムでたくましくてお
 金持ちの旦那様ってわけにはいかないの?」
鏡「白雪姫。世の中そう都合良くはいきませ
 ん。結婚は相手のよい所だけをみて、悪い
 所は目をつぶるのが長続きの秘訣です」
白雪姫「いいこと考えた! 最初に王子と結
 婚して、王子を毒殺して遺産をもらってか
 ら、狩人と再婚すればいいんじゃない」
   金縁の大きな鏡は震える。
鏡「おお! 可愛らしい口からなんて恐ろし
 いことを言うんです。貴女は魔女ですか?」
白雪姫「人聞きの悪い。私は欲望に忠実なだ
 けよ。この美貌を最大限に活用して婚活し
 なくちゃ。私にとっては大事な就職活動だ
 もの」
鏡「恐ろしい、恐ろしい。女性が嫌いになり
 そうです」
白雪姫「そうと決まったら、鏡、あなたを連
 れて行くわ。余計なことをママに告げ口で
 きないようにね」
   鏡は身震いするように震える。白雪姫
   は置物の花瓶を掴むと、振りかぶって
   鏡に向かって振り下ろす。砕け散る鏡。
   白雪姫は破片を拾って、部屋から出て
   行く。

○白いお城・外観(夜)
   白いお城から馬に乗った白雪姫が出て
   行く。白雪姫の鞄からは鏡の破片がの
   ぞいている。白雪姫は長く続く平野へ
   かけていく。

○ 青いお城・外観
   青い屋根のトルコ風のお城である。
   兵士に守られた王子の行列がお城の前
   を通る。
   その両脇を平民が見物している。
   平民に混じって、深くマントのフード
   をかぶった白雪姫が現れる。腕の籠に
   はリンゴが入っている。
白雪姫「リンゴは、リンゴはいりませんか」
   白雪姫は行列へ横から手をのばそうと
   する。
兵士「邪魔だ、どけ」
白雪姫「ああっ」
   兵士(30)が白雪姫の手を払うと、白雪
   姫はわざとらしく道へ倒れる。フード
   がはずれ、白い肌と黒髪が現れる。
   王子(25)が馬を止める。
王子「待って。お嬢さん。無礼をお許しくだ
 さい」
   王子が馬からおり、ひざまずいて白雪
   姫の手をとると、はっと息を飲む。
王子「なんて美しい人なんだ。結婚してくだ
 さい」
白雪姫「まあ」
   白雪姫は片手でマントの下から鏡を出
   すと、小声で話しかける。
白雪姫「鏡よ鏡。王子様って女性の外見だけ
 で即効プロポーズして、やばいやつなんじ
 ゃない? これ大丈夫?」
鏡「ノーコメントでございます」
   白雪姫は素早く鏡をしまうと、王子と
   見つめ合う。
白雪姫「私でよければ、お受けいたしますわ」
王子「嬉しいよ。早速、来週、いや、明日か
 あさってにでも結婚式を挙げよう」
   白雪姫は感極まって首を振る。
白雪姫「王子様…!」
   それを見ていた民衆たちが拍手をする。

○青いお城・バルコニー
   民衆たちが拍手をしている。
   ウェディングドレス姿の白雪姫と、白
   いタキシードの王子様が手をとりあっ
   て微笑み、民衆へ軽く手を振っている。
   白い鳩が飛び、お祝いの紙吹雪も飛ん
   でいる。

○ 青いお城・寝室(夜)
   寝室にはろうそくで灯りがともされて
   いる。ガウンを着た白雪姫は髪を下ろ
   している。同じくガウンを着た王子は
   ベッドに座っている。
   白雪姫はリンゴの籠からリンゴを手に
   取る。
王子「無事、結婚式が終わってよかったよ。
 感動的だったね」
   白雪姫はそっとベッドの横に座ると、
   王子の話をききながら微笑み、シャン
   パンとリンゴを手渡す。
王子「特にあの司祭様の言葉、すばらしかっ
 たね。富める時も病める時も、共に歩み、
 死がふたりをわかつまで…」
   王子はリンゴを齧り、シャンパンを飲
   む。すると顔色がかわり、喉を掻きむ
   しる。王子は助けを求めて白雪姫へ手
   をのばすが、白雪姫は変わらず微笑ん
   でいる。
   王子は大の字になってベッドの上に倒
   れてしまう。
白雪姫「おやすみなさい、王子様。私、あな
 たの財産と結婚したいの」
   白雪姫は齧りかけのリンゴを隠すと、
   叫びながら部屋から出て行く。
白雪姫「誰か! 誰か、大変! 王子様が倒
 れていらっしゃるわ」

○青いお城・寝室(夜)
   白衣の医者と、大臣と、白雪姫が王子
   をのぞきこんでいる。医者が王子の脈
   をとり、眼鏡を外して大臣に向かって
   首を振る。

○青いお城のそば・林の中
   喪服姿の白雪姫が散歩をしている。
   白雪姫はポケットから鏡を取り出して、
   語りかける。
白雪姫「鏡よ鏡。王子様の財産を相続するこ
 とになったわ。次はハンサムな狩人を探し
 にいきたいの」
鏡「本気ですか? まだ喪中なのに?」
白雪姫「私はブレないのよ。鏡よ鏡。狩人は
 今どこにいるの?」
   鏡は震えると、森のほとりの狩人の家
   を映し出す。
白雪姫「これ、実家の近くの森だわ。気晴ら
 しに帰省すると言って、会いに行きましょ
 う」

○青いお城・城の前
   二頭立ての馬車に乗った白雪姫と、お
   供の兵士2名も馬に乗って出発する。

○森のほとり・泉の近く
   馬車が止まり、白雪姫が出て来てのび
   をする。兵士も馬をとめ休憩をはじめ
   る。白雪姫は泉から水をのむ。
白雪姫「本当に奇麗な泉ね」
   水面には白雪姫が映っている。と、人
   影がうつりこむ。白雪姫が驚いて顔を
   あげると、狩人(29)が立っている。
   浅黒く精悍な顔立ちである。
狩人「お嬢さん、こんな所で何してるんだ」
   兵士2名があわてて狩人を白雪姫から
   離そうとするが、白雪姫はそれを制止
   する。
狩人「あんた、お供なんかつれて貴族か何か
 か? 早く帰ったほうがいい。ここらはあ
 んまり治安がよくないんだ。先日もお城の
 白雪姫っていうお姫様が、城の真実の鏡を
 壊した挙げ句家出をしたんだ。顔は奇麗だ
 けど性格は最悪っていう噂の姫さ」
   歌声がして、森から7人の小人が歌い
   ながら一列に出てくる。
狩人「俺と7人の小人はお妃に頼まれて、パ
 トロールをしてるのさ。あんた、名前は?」
白雪姫「私? 私は…ええと…オーロラ姫と
 申します」

(未完)


2 課題 悲しみ

    さよなら思い出

  人  物

朝倉晶夫(55)画家
朝倉節子(54)晶夫の妻
シロ(2)朝倉の飼い犬
医師(60)
司会者
魚屋
警察官

○ プリンスホテル・外観
   大きなホテルである。

○ プリンスホテル・イベント会場内
   100人ほどの人が壇上に向かって拍
   手をする。壇上には司会者がいる。
司会者「それでは、この度アンデルセン賞を
 受賞されました、朝倉先生に一言感想をい
 ただきましょう」
   壇上にスーツ姿の朝倉晶夫(55)が
   出て来る。マイクを受け取り話す。
朝倉「この度は、このような栄誉ある賞をい
 ただいてありがとうございます。普段は売
 れない画家ですから、本当に、まだ信じら
 れないくらいです。私は絵の題材には身の
 回りのものを選んで描いて来ました。飼い
 犬や、商店街や、妻、植木。あ、妻と植木
 を並べたら怒られるかな?」
   会場から少し笑いが起きる。
朝倉「とにかく、そういった周りの方々や物
 に、神が宿ると僕は信じています。本当に
 ありがとうございました」
   会場の人々は拍手をする。朝倉節子(5
   4)も壇上に向かって拍手している。

○ プリンスホテル前・タクシー乗り場
   朝倉と節子が並んで待っている。
節子「あなた、鞄はどうしたの」
朝倉「あっ。控え室に忘れた」
節子「もう、忘れっぽいんだから」
   朝倉はホテルの方向へ戻って行く。

   × × ×

   鞄を持った朝倉が節子の隣へ来る。

○ タクシー内
   後部座席に節子と晶夫が乗っている。
   タクシーは道を走っている。
節子「夕飯はお祝いにご馳走にしましょうか」
朝倉「じゃあ、さんまにしよう」
節子「あなたったら欲のない人ねえ。せっか
 く大きな賞をいただいたのに」
朝倉「大きな賞でも小さな賞でも、奥さんの
 焼いたさんまが一番美味しいのさ。僕はさ
 んまが大好きなんだ」
   苦笑する節子。

○ 商店街前
   タクシーが止まり朝倉と節子が降りる。

○商店街内
   魚屋がふたりに声をかける。
魚屋「奥さん! 御安くしとくよ。どうした
 い? 今日はふたりしておめかしして」
節子「ふたりで出かけてたの。さんま2匹」
魚屋「あいよっ」
   魚屋はさんまを袋へ詰める。

   × × ×

   子供達が4、5名連れ立って笑いなが
   ら駆け抜け、朝倉と節子とすれ違う。
   朝倉はそれを笑顔で見ている。

○ 朝倉家・外観
   こじんまりとした一軒家である。

○ 朝倉家・玄関前
  シロが嬉しそうにしっぽをふり立ち
  上がる。朝倉はシロをなでて、玄関へ
  入っていく。節子も玄関へ入る。

○朝倉家・台所(夜)
   食卓にさんまとご飯が並んでいる。
   朝倉と節子が食事をしている。
朝倉「次の絵のイメージが浮かんだよ。子供
 達にしようと思うんだ」
節子「素敵じゃない」
朝倉「こう、大きなキャンバスに子供達が元 
 気いっぱいに走っていくところを描く」
   節子は微笑んで朝倉をみている。

○朝倉家・台所(夜)
   節子が洗い物をしている。節子は棚の
   上の鍵に気付く。
節子「あら、あの人ったら、こんな所に鍵を
 置き忘れてるわ。また騒ぐのね」
   廊下から朝倉の呼び声がする。
朝倉「節子! 節子!」
節子「はいはい」
   節子は手を拭く。台所の入り口へ朝倉
   がやってくる。
朝倉「夕飯はまだ?」
節子「えっ……、何をおっしゃってるんです
 か。さっき食べたじゃありませんか」
朝倉「食べてないよ」
節子「御夕飯は、あなたの好物のさんまだっ
 たでしょう?」
   朝倉と節子は見つめ合ったまま立ち尽
   くす。
○病院内・診察室
   朝倉と節子と医師が座っている。
医師「アルツハイマーです」
朝倉「アルツ、ハイマー?」
医師「進行性の病気です。脳の機能が低下し
 ていく病気ですね。これから大変でしょう
 が気を落とさずに取り組んでいきましょう」
   朝倉と節子はあっけにとられている。

○病院の外・道
   朝倉と節子はうつむいて歩いている。
   朝倉が気を取り直し顔をあげる。
朝倉「僕はこれから、絵をたくさん描くよ。
 忘れても思い出せるように。特に君の絵を
 描くよ」
   節子は不安そうである。

○朝倉家・外観
   曇り空の下の朝倉家である。

○朝倉家・台所
   あらゆるものに付箋紙が貼られ、説明
   が書いてある。節子が洗い物をしてい
   る。廊下からガシャンと物を壊す音が
   する。節子は驚き、手を拭く。

○朝倉家・アトリエ
   朝倉が頭を抱えてうずくまっている。
   周りに絵の具が散らばり破かれた絵が
   何枚も落ちている。節子が入って来る。
節子「あなた、どうなさったんです?」
   節子は破かれた絵に気付く。
節子「この絵! 賞をいただいた絵じゃあり
 ませんか」
朝倉「描けないんだ」
節子「え?」
   朝倉は子供のように節子にしがみつく。
朝倉「絵が描けないんだよ! 描き方がわか
 らないんだ! うわあああ」
   節子は当惑している。
○朝倉家・玄関
   シロの首輪だけ落ちている。通りかか
   った節子がそれに気付き、首輪を拾う。

○朝倉家・アトリエ
   朝倉が座っている。節子がやって来る。
節子「あなた! シロを知らない?」
朝倉「シロ?」
節子「犬のシロよ。ほら絵にも描いたでしょ」
   節子は破かれ修理痕のある絵を指差す。
朝倉「玄関の犬なら、追い払ったよ。野良犬
 だと思ったんだ」
節子「あなた! どうして」
朝倉「君も、一体誰なんだ? 僕の家だよ。
 知らない人が入ってきたら、警察呼ぶよ?」

○ 朝倉家・玄関
  雨である。節子が犬小屋の横に座って
  泣いている。玄関の外の道から、濡れ
  たシロが帰って来る。
節子「シロ! ごめんねシロ」
   節子は泣きながらシロを抱きしめる。

○警察署・外観
   警察官と朝倉が座っている。
警察官「あんた、名前は?」
朝倉「はあ」
警察官「名前を聞いてるんだよ。迷子なんだ
 から。あと住所は?」
朝倉「はあ」
   警察官は乱暴に机にペンを置く。
警察官「あんた、ぼけてんのか?」
   朝倉はぽかんと警察官を見ている。

○ 病院・外観
   大きな病院である。

○病院・診察室
   節子と医師が座っている。
医師「これからこういう徘徊はどんどん増え
 るでしょう。具合がよくなったように見え
 ても一進一退して記憶は混濁していきます。
 今の内に相続の話をしておいてください」
   節子は顔を覆ってうずくまるように丸
   くなる。やがて泣き声が診察室に響く。

○プリンスホテル・イベント会場内
   燕尾服の朝倉が壇上に立っている。拍
   手をしている人が順に映る。皆満面の
   笑顔である。
   魚屋、子供たち、しっぽをふるシロ、
   医師、司会者、警察官、節子。
   節子はラメの入った布地でドレスアッ
   プしている。壇上に節子も上がる。
朝倉「今日は最高の日だね。天国みたいだ」
節子「夕飯はさんまでお祝いしましょう」
   朝倉がにっこり微笑む。節子もにっこ
   り微笑む。朝倉と節子は手をとる。拍
   手がいっそう大きくなり、会場はきら
   きらと輝いている。


3 課題 盗み

   聖子の正義

  人  物

岡田聖子(28)婦警
岡田政史(55)ホームレス
岡田幸恵(54)主婦
阿部幸雄(30)聖子の同僚
女性(60)主婦
レポーター(26)テレビ局のレポーター
店員(36)パチンコ屋店員


○ 東京・全景
   ビルの並ぶ都心である。

○商店街・全景
   こじんまりとした街の商店街である。

○同・アーケード内
   人が多い。皆コートを着ている。店の
   のぼりには年末大感謝祭、や、年末ジ
   ャンボとあり、餅を売っている。
   岡田聖子(28)は婦警の格好で交通
   整理をしている。年配の女性の叫び声
   があがる。
女性「どろぼーっ」
   皆、女性(60)の方を見る。
   女性が地面にひざをつき、手をのばし
   ている。手を伸ばした方向に、灰色の
   ジャンパーを着たひったくりが走って
   いく。人にぶつかって押しのけていく。
   ひったくりは女性用のハンドバッグを
   もっている。聖子は走り出す。
聖子「待ちなさいっ!」
   聖子も人ごみをかきわけ走る。ひった
   くりも走る。

○裏路地
   聖子は息を切らして周りを見回すが、
   人はいない。

○ 警察署・外観
   警察署である。

○同・玄関
   私服姿の聖子が阿部幸雄(30)と話 
   しながら出て来る。
聖子「商店街で、ひったくりを捕まえ損ねた
 のよね。まったく、お年寄りや女性ばかり
 狙うなんて許せない」
阿部「年末にいつも軽犯罪増えるよね。寒く
 て年が越せないのかな。そう考えると泥棒
 も少し気の毒だけど」
聖子「私はどんな状況でも、絶対に弱者から
 物をとったりしないわ。自分が死んだ方が
 ましよ」
阿部「ところで、岡田さん。この後どう?」
聖子「あ、ごめんなさい。母が待ってるから」
   聖子は会釈して小走りに走っていく。
   阿部はため息をつく。

○ 岡田家・全景(夜)
  赤い屋根の一軒家である。

○ 同・居間
   聖子は淡い黄色のセーターを着て、ご  
   飯を食べている。向かいに岡田幸恵(5
   4)が座ってご飯を食べている。テレ
   ビがついている。テレビはお寺が鐘を
   掃除をする様子を映している。
レポーター「このように、除夜の鐘もすす払
 いをして年越しに備えています。次は、公
 園の様子です」
   大きな公園が映し出される。炊き出し
   をしている。みすぼらしい身なりの
   人々が行列を作っている。
レポーター「代々木公園では、このようにボ
 ランティアの方々が炊き出しをしています」
   テレビではみすぼらしい身なりの人が
   炊き出しの雑炊をすすっている。
幸恵「寒そうね。お父さんもどこかで元気に
 しているかしら」
   聖子は箸をとめる。
聖子「お母さん、もうその話はやめましょう。
 どこかで元気にしてるわよ」
幸恵「そうね、ごめんなさい」
   幸恵はとりつくろうように笑う。
   聖子と幸恵は食事を再開する。
聖子(心の声)「私の父は、事業に失敗して失
 踪してから、かれこれ10年帰って来てい
 ません。私が警官になったのも、父を探し
 やすいと思ったからです」
○ 繁華街・全景
   騒がしい繁華街である。パチンコ屋の
   看板が出ている。

○パチンコ屋・出口
   男がパチンコ屋から走り出ていく。
   男を追いかけてはっぴを着たパチンコ
   屋店員が出て来る。婦警の格好の聖子
   が自転車を押している。
店員「まてっ、レジドロボー!」
   聖子は店員の叫び声に気付き、自転車
   にまたがる。

○橋の上
   聖子が男に追いつく。聖子は自転車か
   らおり、思い切り男にタックルする。
   聖子はもみ合った末、男の腕をねじ上
   げ、地面へおしつける。
聖子「観念しなさい!」
男「ううう、はなせ!」
聖子「あれ、その声…」
   聖子は男の顔を確かめる。
聖子「お父さん?」
   男は驚いて目を見開く。岡田政史(5
   5)である。
岡田「聖子か!?」
聖子「お父さん、何してるのよ!」
岡田「聖子、頼む、見逃してくれ」
聖子「本当に何してるのよ! お母さんも心
 配してるわよ!」
岡田「俺を警察へ連れていったりしないよ
 な? 許してくれ」
聖子「許すも許さないもないわよ! こんな
 馬鹿なことして」
   聖子は岡田を立たせる。岡田はお金を
   生で握っている。
岡田「俺の娘が警官になってたなんてなあ」
聖子「パチンコ屋に謝りにいきましょう。も
 し示談で済んだら、逮捕しなくて済むわ」
岡田「俺は謝りに行ったりしない」
聖子「お父さん!」
岡田「俺だって好きでこうなったんじゃない。
 社会が悪いんだ。俺みたいな弱者に何もし
 てくれない」
聖子「やめてよ、いい大人が」
岡田「だから、生きるためには多少悪いこと
 をしても仕方ないんだ。この金がなくちゃ、
 俺は冬を越せずに凍え死にしちまう。弱者
 を守るのが公僕だろ?」
   岡田と聖子は見つめ合う。
聖子「それは……」
岡田「仕方ないって、わかってくれるだろ、
 聖子。パチンコなんてどうせギャンブルの
 あぶく銭だ。お父さんを犯罪者にしたくな
 いだろ」
   聖子は一拍おいて岡田をにらみつける。
   聖子は岡田の手を掴む。
   岡田と聖子はもみ合い、岡田は転ぶ。
岡田「あっ」
   聖子は息を切らし、現金を握って立っ
   ている。
岡田「何するんだ!」
聖子「このお金は私がもらうわ」
岡田「聖子!」
聖子「本当にとられた人の気持ちになれば、
 泥棒なんてできないはずよ」
岡田「聖子! お父さんが凍えて死んでもい
 いのか」
聖子「お父さんが盗んだお金を、私も盗むわ」
岡田「警官が人のものをとるのか!」
聖子「凍え死ぬくらい辛ければ、盗られた辛
 さがわかるでしょう! 他人の痛みをお父
 さんにもわかってもらう、それが私の正義
 よ」
   岡田は起き上がる。鬼のような形相で
   聖子につかみかかる。
岡田「この自己満女! お前は何にもわかっ
 ちゃいない! 物をとられるより、盗る方
 が苦しいんだ!」
   聖子は岡田を突き飛ばす。
   聖子は自転車を起こし、またがる。
聖子「まともになるまでうちには帰ってこな
 いで!」
   聖子は自転車で走り去る。

○ 神社前
   聖子は神社の前で自転車を止める。
   聖子は神社の中へ入っていく。

○同・賽銭箱前
   聖子はポケットから現金を取り出し、
   賽銭箱へ投げ入れる。聖子は手を合わ
   せて熱心に祈る。神社の林がざわざわ
   と黒く風になびいている。

○ 岡田家・全景(夜)
  赤い屋根の一軒家である。

○ 同・居間
   聖子は淡い水色のセーターを着て、
   おでんを食べている。向かいに幸恵も
   座っておでんを食べている。
幸恵「お父さんもどこかでおでんとか、温か
 いもの食べてるかしら」
   聖子は箸をとめる。
聖子「きっと、食べてるわ」
   幸恵は微笑み、食事を再開する。
   聖子は箸をとめたままぼんやりと窓の
   外を見ている。

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